2007年 02月 12日
レアル・マドリーを率いるファビオ・カペッロと、バルセロナを率いるフランク・ライカールト。 この二人は世界でも指折りの指揮官であることに疑いの余地は無い。 しかし、あえてこの二人の指揮官としての"問題点"を追求してみたい。いささか暴論もあるがその辺はご容赦いただきたい。 --レアル・マドリーの監督、ファビオ・カペッロの問題点-- ■ 途中解任が1度も無いカペッロが見せる"狡猾さ" ファビオ・カペッロはもう20年になんらんとする監督人生の中で、一度も途中解任されたことの無い、極めて珍しいと言うか優秀と言うか、そう言った監督である。しかし、途中解任されたことがない=優秀と直結してしまっていいものか、今シーズンの2試合の彼の選手の起用法を例にとって考えてみよう。 【ケース1】:07年1月7日 対デポルティーボ・ラ・コルーニャ戦(アウェー) 0-2で敗戦 短いウインターブレイク明けの初戦。レアルはアウェーのデポル戦に臨む。この日はいい所無く0-2で敗戦した。この時、彼は敗色濃厚の後半途中から"コンディションの上がらない"ロナウドを途中出場させた。もちろん彼は何も出来ずにチームも敗れた。この時の試合後のカペッロの発言はこうだ。 「選手の中に全力でプレーできないものがいる。私はもう2度と、そういった選手は使わない。」 全力でプレーできないもの、とは誰だろうか?そう、ロナウドである。誰が見てもコンディションの上がらないロナウドをピッチに引きずり出し、見事に戦犯に仕立て上げたのである。この試合以降、カペッロはロナウドを試合のメンバーから外した。そして、現在ロナウドはイタリアでロッソ・ネロのユニフォームを着てプレーしている。カフーやカカと楽しそうに談笑しながら…ここまでの経緯は皆さんの方がよくご存知だろう。彼は、ロナウドをダシにして保身を図ったのだ。そして、彼をけれんみも無く切り捨てることに成功した。 【ケース2】:07年2月10日 対レアル・ソシエダ戦(アウェー) 2-1で逆転勝利 この試合に負ければ3連敗となり、カペッロの更迭が現実味を帯びてくる大事な1戦に、カペッロは、"もうレアルのユニフォームを着て試合に出ることはない"と言い放ち、フロントからお灸を据えられるような事件に発展したその人、ディヴィッド・ベッカムをスタメンで起用した。勘のいい人なら、この起用の瞬間、カペッロが何をしようとしていたのかピンと来たはずだ。カペッロは彼の正確無比なFKを当てにしたわけでは…決して無い。そう、ロナウドと同様、敗戦のときに備えてのスケープゴートに彼を起用したのだ。しかもここで彼が役に立たなければ、諸手を振って彼を戦力外にできると言うおまけまでついていた。彼を起用しない手はなかった。 しかし、カペッロの思惑は、いい意味で外れた。ベッカムはソシエダに先制され後FKを直接ソシエダゴールに突き刺して追いつき、逆転の足がかりを作ったのである。 試合後のカペッロのコメントはこうだ。 「ベッカムはとてもプロフェッショナルだった」 「彼はレアル・マドリーにならなくてはならない存在である」 戦力外と言い放って舌の根も乾かないこのタイミングでベッカムを褒めちぎる。そりゃそうだ、不名誉な途中解任から救ってくれたのは戦力外のベッカムなんだから。 彼の起用法には試合の流れ以外の何かが隠されていることが非常に多い。今後も彼の選手起用について注意深く見守ってみるといいだろう。突然、今まで使っていなかった選手を起用したり、大一番に大抜擢とも言えるような起用をした場合、何らかの意図が後ろに控えていることを疑った方がいい。例えばラウールとか、サルガドとか、ロベ・カルとか…もしくはパボンとかラウール・ブラーボとか… ■ 全てを保証されて、初めて交渉のテーブルに着く 現レアル・マドリー会長のカルデロンは会長選の公約にカペッロの招聘を掲げていた。そして、カルデロンはカルチョ・スキャンダルの間隙を縫いカペッロと電撃契約を結んだ。 この契約のテーブルで、カペッロはタイトルの確約と引き換えに非常に身勝手な要望をいくつも通している。特に選手の獲得についてはほぼ注文どおりの条件を突きつけた。 これに対しカルデロンは最大限の努力を約束。TDのベギリスタインもカペッロの手足となってカペッロのお気に入りの選手へのアプローチを粉骨砕身の努力で行っている。果たしてレアルはこの1年間に移籍市場にどれだけの金額を投じただろうか。もう数え切れないだろう。 彼の戦術や選手の起用法にも一切口を挟まない約束を交わしている。どれだけファンがカペッロを罵ろうと、会長やTDは全面的に彼をかばってくれる。プレッシャーももちろん感じるだろうが、このような手厚い保護を受けてカペッロはチームの再建を手がけているのだ。とりあえず、自分の息のかかったベテランやお気に入りの選手を買い漁り、結果が出ないと見るや否や若手を買い漁り、チームの方向性の転換と称し、成績の犠牲を訴える。このシナリオはカペッロがレアルに着任するときから描いていたシナリオだろう。 真っ先は自分の保身。そして、結果のみを追求する退屈なサッカー。結果と言う観点で見れば非常に優秀な監督と言えそうだが、色々な視点から彼を見つめていると、必ずしもそうだとはいえないような気がする。事実、彼がチームを離れてから、彼は素晴らしい監督だったなんてコメントは殆ど聞かれないのだから。 --バルセロナの監督、フランク・ライカールトの問題点-- ■ 自分のセオリーに固執しすぎるきらい "コネホ"サビオラは今シーズンが始まる前、バルセロナの残留を決めた。それは、チームに貢献したいと言う思いなのか、来シーズンフリートランスファーで移籍し、チームに金を落とすことなくチームを去ろうとしたのか、真意は解らないが、一ついえることはライカールトはサビオラに感謝しなければならないと言うことだ。シーズン前に"戦力外"と言い放っていたのにもかかわらず、だ。 サビオラを"7番手のFW"と表現し彼を冷遇したシーズン序盤。3トップはすでに2枚ずつ選手をそろえており、サビオラがチームのメンバーとして帯同することはない、と言うライカールトの痛烈な通告にも、サビオラはめげずにトレーニングを続けた。 そして、エトオが怪我をし、グジョンセンがエトオの代役をこなせるだけの器がないと判断されたその時から、サビオラにも出番がやってきた。 もともと身長の低さをポジショニングやシュート制度でカバーしていた"逸材"である。ポジショニングが大事とされる現在のバルサのサッカーにもすっかり溶け込んで、エトー不在のゴール欠乏症を救ってくれたのは紛れも無くサビオラだった。もしライカールトが、もっと早くサビオラを使う決断をしていれば、もっと違った結果がついてきていた可能性は十二分にある。そう、ひょっとすれば昨年暮れの横浜で勝利の美酒に酔いしれていたのはバルセロナかも知れないのだ。 また、攻撃とポゼッションを前面に押し出す4-3-3は最近、4-4-2のひし形と言うシステムによって"攻略"されつつある。今年チェルシーが試している4-4-2はバルセロナ対策のためのシステムだと言うのももっぱらの噂である。しかし、ライカールトはそれにも怯むことなく4-3-3を使い続けている。 これを信念が固いと評価すべきか、あたまがが固いとこき下ろすかは個人の判断に任せるが、4-3-3を2年続けたモウリーニョが今年4-4-2を積極的に導入している事実が何なのかと言う理由を突き詰めれば、ライカールトの判断の是非も自ずと明らかになってくるはずだ。 また選手の起用法にも、柔軟さに欠けているように思える。あまりにも攻撃的過ぎる起用や交代、そして選手を好みで使い分ける傾向があり、良し悪しに関わらず自分の信念を貫きすぎて失敗している例も多い。前述のサビオラはその顕著な例だ。 ■ 選手とのコミュニケーションに難がある 昨日、チームに復帰したエトーとライカールトにちょっとした不仲説の噂が流れた。これについてはロナウヂーニョとエトー本人が否定して噂も収まったが、これもライカールトのコミュニケション不足によるところが大きい。 実際、見た目以上に選手はライカールトを信用していないと言うのが本当の所らしい。それもそのはず、昨年まで選手とのコミュニケーション役は現アヤックス監督のテン・カテにまかせっきりだったからだ。簡単に言えば、ライカールトは権謀術数役で、テン・カテが選手の愚痴聞き係だったというところか。 ライカールトは、選手との距離をしっかり保つタイプだと発言している。しかし、しっかりと言うあまりにも距離が遠いためか、彼の真意が試合中にも伝わらないことが多い。プジョルがライカールトとよく怒鳴りあっているのは、中盤より前の選手が守備をしないから、ではなく守備をしなければいけない局面で守備をさせることを選手に伝えることが出来ないライカールトに怒り心頭だからだという。 選手がライカールトをかばう発言をあまり聞かないのも問題だ。チェルシーのモウリーニョの場合、真意は解らないが多くの選手が彼をかばうのに対し、バルサの選手はライカールトがたまに槍玉に上がっても、それほど擁護しない。これは何より監督と選手の間柄を示していると言えるだろう。 カペッロとライカールト。実績に埋もれ、彼らの欠点は今は目立たない場所にある。しかし彼らとて人間。もちろん欠点はある。その欠点に如何に早く気がつき修正できるのか。カペッロは良くも悪くも監督として完成してしまっているが、ライカールトはまだ若い。如何に今の現状に甘んじることなく自らを律して改善できるか。ライカールトの指揮官としてのキャリアは大成されるのか。名選手=名監督たりうるのか注目したい。
by R-130
| 2007-02-12 03:11
| ∟Football otherissue
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